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国立大学の職員は、2004年に法人化されるまでは「文部科学省の職員」として国家公務員の身分を有していました。
法人化によって職員は全員公務員ではなくなりましたが、刑法の適用や給与水準、福利厚生等は公務員とほぼ同等でなので「みなし公務員」「準公務員」と呼ばれることもあります。
国家公務員には総合職と一般職の2種類があり、政策立案等を行うのが総合職、定型的な事務を行うのが一般職です。
国立大学の職員は一般職に相当しますが、一般職の中でも官庁によって仕事の忙しさや待遇が少し違います。
具体的には、霞が関の本府省で働く職員は超激務で少し給料が高く、ハローワークや入管、税関などの出先機関で働く職員は比較的ワークライフバランスが充実していて、給料が少し低い傾向にあります。
出先機関とは、各府省(本府省)が全国各地に構える事務所のようなもので、管轄する地域の広さによって「管区機関」「府県単位機関」「その他の地方支分部局」「施設等機関」などの名称で呼ばれます。
法人化前の国立大学は、文部科学省の施設等機関という位置づけで、文部科学省の末端子会社のような存在でした。
昇進スピードについては「国立大学職員の趣味日記」というブログでも言及されています。
2009年の記事では、「国立大学職員は、かつて、昇進が異常に遅かったのです。結構年配なのに、主任だったり、係長だったり、課長補佐だったり、私の回りに沢山いました。」と書かれていて、その理由の一つとして、文部科学省からの異動や全国異動課長が管理職のポストを占めていたことを挙げています。
このことからも、少なくとも2009年頃までは、国立大学職員の出世速度は他の公務員と比べて遅かったことがわかります。
国立大学法人職員の給与は国家公務員より少ない? ~目指せ国立大学事務職員シリーズ4~
2009年 11日10日
では、何故当時から他省庁等機関の給与との差がついているのでしょうか。実は、採用直後の段階では、国立大学職員と国家公務員との間では、ほとんど差がありません。
しかし、時間がたつにつれ、分かってくるのでした。国立大学職員は、かつて、昇進が異常に遅かったのです。結構年配なのに、主任だったり、係長だったり、課長補佐だったり、私の回りに沢山いました。
これは、どうしてかというと、課長以上の職、室長や次長、部長、局長などは、今まで、大学で採用になった職員(「プロパー職員」と呼びます)からは、昇進できなかったからです。プロパー職員は一番出世して、課長補佐や部局の事務長(課長相当)が最高到達点で、それ以上の役職については、文部科学省からの異動や全国異動課長(これはまたの機会に説明します)の指定席となっていたため、プロパー職員は級がなかなか上がらず、上げ幅の少ない号が年々積み重なる程度で、給与の上がり幅が少ないため、差がどんどん開いていったのです。
引用元:国立大学職員の趣味日記 : 国立大学法人職員の給与は国家公務員より少ない? ~目指せ国立大学事務職員シリーズ4~
昇進の遅さが公式認定される
2018年4月に、文部科学省が「大学等における「教職協働」の先進的事例に係る調査」の結果を発表しました。
この調査は、文部科学省の委託を受けた株式会社リベルタス・コンサルティングが「教職協働」の取組を行っている大学を調査し、他大学へ参考として送付する事例集を作成することを目的として行われたものです。
調査結果では東京大学の「教員の研究時間劣化の改善に向けた事務職員人事制度の再構築プラン」が紹介されていて、事務職員のキャリアパスについて「例えば昇進については,旧国家II種試験で採用された国家公務員よりも遅いスピードとなっている。」と書かれています。
その一方で、続きに「これを国家II種レベルの昇進スピードに引き上げることも今回の改革の目的の1つである」と書いてあることから、東京大学では昇進スピードを早める取組みを行っていることがわかります。
具体的には、「複線型キャリアパス」を導入し、専門的な業務に従事する職員の処遇を向上することが挙げられています。専門的な業務の内容については調整中としつつも、カリキュラム策定、奨学金、入試、地域連携、国際、IR活動、情報セキュリティを想定しているそうです。
(1)事務職員のキャリアパス
現在の事務職員のキャリアパスは,法人化前の国の人事慣行が残っている部分もある。例えば昇進については,旧国家II種試験で採用された国家公務員よりも遅いスピードとなっている。これを国家II種レベルの昇進スピードに引き上げることも今回の改革の目的の1つである。
①事務職員の複線型キャリアパスの形成これまで東京大学の事務職員のキャリアパスは,単線型のパスしか存在せず,基本的に役職に就かないと処遇が良くなることはなかった。そのため,専門的な業務に従事する事務職員にふさわしい処遇が与えられていなかった。そこで,キャリアパスについて,「事務総合職として従事するライン職」と,「事務専門業務に従事するスタッフ職」の複線型キャリアパスにすることにした。
独自試験による採用を行ったのは,人材の多様性を確保することがねらいであった。また,独自試験を開始してから,東京大学卒の学生の応募も増えた。現在は,採用者のうち毎年3割程度が東大出身者(学部・院卒含む)となっている。
管理職のほとんどは文科省からの天下りというのは半分間違い
文部科学省の総合職の官僚が各大学に出向(悪い言い方をすれば天下り)して支配していると思いがちですが、それは少し前までの話で現在は異なるようです。
というのも、大学マネジメント研究会が発行している会誌「大学マネジメント」2019年10月号によると、法人化後は、キャリア官僚が管理職を占めることは少なく、ノンキャリアの異動官職が要職を占めているようです。
異動官職とは、各国立大学に採用された後、20代後半で文部科学省に転籍し、40代後半から管理職として全国の国立大学を転々と異動するノンキャリア職員のことを指します。総合職を異動官職とは呼びません。
…(前略)…
しかし、法人化から16年目に入った今日でも、事務局長(あるいは総務、労務、財務などの管理運営の総括責任者)は文科省の役員出向によってほぼ全員が占められている。
そして彼らの大半は、いわゆるノン・キャリアと呼ばれる、国家公務員初級・中級試験合格者で、国立大学職員→文科省移籍、30代で係長→38歳で国立大学課長→40代前半で文科省課長補佐→48歳で国立大学部長→50代後半で国立大学事務局長というコースを歩んでいる。
大学マネジメント OCT 2019 Vol.15,No.7 7ページ
文科省 国立大「天下り」@東京新聞
2014年9月1日付けの東京新聞によると、2014年4月1日現在、各大学の課長級以上の管理職は2435人おり、その内1割弱の239人が文部科学省出身者とのことです。
法人化前の2003年は、文科省出身管理職が計668人いたとのことですので、それに比べるとかなり減少しているようです。
文科省 九割 国立大学へ「天下り」
強まる支配力 懸念
「人事交流」幹部ずらり
大学も呼応「適材適所」
予算獲得「あしき関係」
行政手腕に期待
東京新聞 2014.9.1 pic.twitter.com/HgA7kJv42J東京新聞 bot (@TokyoShimbunbot) December 3, 2015
文科省は一般職を採用しない時期があった
ここで興味深いのが、昔の文部科学省は「総合職」と「国立大学出身の一般職」で構成されていて、「文科省採用の一般職」が全くいなかった、ということです。
国立教育政策研究所 教育政策・評価研究部長の渡邊 恵子部長によると、文部科学省は1973年から1995年までの22年間、総合職(旧:国家Ⅰ種)以外の職員について、本省直接採用は行わず、その代わりに各国立大学に採用された者の中から人手を確保してきたとのことです。
「国立大学職員の人事システム―管理職への昇進と能力開発」渡邊 恵子(2018)
文部科学省国立大学法人等幹部職員名鑑
株式会社官庁通信社が毎年発行している文部科学省国立大学法人等幹部職員名鑑には、文部科学省の係長級以上の職員と、各国立大学および文科省所管独立行政法人の課長級以上の職員の氏名、経歴、顔写真などが詳細に掲載されています。(国立国会図書館などで見ることができます)
平成30年度版の同名鑑によると、全国にある86の国立大学法人のうち文科省出身者(=キャリア、国家総合職)が事務局長の大学は28大学、異動官職が事務局長の大学は58大学と、約7割の大学で異動官職が事務局長に就いていることがわかりました。
一方で旧帝大学においては、北海道大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学は文科省出身者が、東北大学・九州大学は異動官職が事務局長に就いており、上記の比率と逆になっていました。
同名鑑によれば、旧帝大学の部長級の4~5割がプロパー、4割が異動官職、1割弱が文科省出身者でした。
課長級になると9割以上がプロパー、1割弱が異動官職となっていました。
今後はむしろプロパー職員のほうが出世しやすくなるのか?
渡邊氏によると、法人化によって国立大学部課長の学内登用が増加しており、文科省の関与も少なくなってきているとのことです。
そして「法人化後は採用大学での勤務を中心にしていても、部長まで昇進する事例が多数みられるようになり、場合によっては逆転する可能性も生じてきた」とのことで、プロパー職員にとって明るい未来が待ち受けているような気がします。
法人化により国家公務員ではなくなったため、任命権も文部科学大臣から各国立大学法人の長である学長になり、採用も国家公務員採用試験合格者の中からではなく、国立大学法人等職員統一採用試験を経て行われることになった。
にもかかわらず、若いうちに国立大学法人から文部科学省に「転任」するルートは健在であるが、従来の課長登用はブロック登用又は学内登用となり、文部科学省大臣官房人事課が国立大学幹部職員人事に関与する範囲も狭まった。
実際にも、第一期中期目標期間最終年度である2009(平成21)年度においては、学内登用者と想定される、勤務している大学が採用大学である者が部課長職で増加しており、法人化による学長の裁量の拡大による学内登用者への「戦略的置き換え」が起こっていることが示唆された。
引用元:国立大学事務局幹部職員の昇進構造と能力開発 渡邊 恵子(2016)
法人化前は、採用大学での勤務を中心にしている者は昇進してもほぼ課長級の事務長止まりで、本省転任者が最低でもほぼ保障された課長職と同等だったが、法人化後は採用大学での勤務を中心にしていても、部長まで昇進する事例が多数みられるようになり、場合によっては逆転する可能性も生じてきた。このことは本省転任へのモチベーションを下げる方向に働くであろう。
引用元:国立大学職員の人事システム―管理職への昇進と能力開発 渡邊 恵子(2018)
- (株)リベルタス・コンサルティング(2018)「大学等における「教職協働」の先進的事例に係る調査」(平成29年度文部科学省委託調査)
- 大学マネジメント研究会(2019)「大学マネジメント OCT 2019 Vol.15,No.7 7ページ」
- (株)官庁通信社(2019)「文部科学省国立大学法人等幹部名鑑」
- 渡邊 恵子(2016)「国立大学事務局幹部職員の昇進構造と能力開発」
- 渡邊 恵子(2018)「国立大学職員の人事システム―管理職への昇進と能力開発」東信堂.